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『羽の音』(大島真寿美著、理論社)

c0077412_1712756.jpg高校三年生の菜生の日々を12月1日から12月31日まで日を追って記した日記形式の小説。
言葉がやわらかく、時間がゆっくり流れている。饒舌さ、騒々しさ、慌ただしさとは無縁の、このふんわりした雰囲気が実に心地よい。

離婚した両親が残していった家で姉といっしょに暮らしている菜生は、ある日学校に行くのが嫌になり、その日以来毎日学校をさぼって家でぶらぶらしている。模範的にきちんとした生活をしてきた姉が、ある日とつぜん会社を無断欠勤し、そのままずるずる休み続ける。二人とも相手を責めたり励ましたりすることはない。ただいっしょにだらだらとさぼり続ける。友人のミキオは自殺未遂で死にかけたあと、一年近く神経科の病院に入院している。その彼を訪ねていっても、菜生は別にミキオに優しいことばを掛けるわけでもないし、ミキオも別にそんなことを期待している様子はない。慰めも、励ましもないまま、ただいっしょに時間を過ごす二人。

身体が、あるいは気持ちが萎えているときは、慰められたり励まされたりするのは煩わしい。相手もいっしょに萎えてくれるのがいちばんいい。相手が萎えているときも、慰めたり励ましたりするのはしんどい。できればいっしょに萎えていたい……と常々思っているのだが、そんな気持ちにぴったり来て実に心地よい読み物だった。ただし、ここに登場する人物たちは萎えっぱなしで終わるわけではない。一時、徹底的に萎えたところから新しいなにかが生まれるのである。(2008.8.26記)
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by nishinayuu | 2008-11-22 17:12 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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