『ベルリンの壁の物語 下』(クリストファー・ヒルトン著、鈴木主税訳、原書房)

c0077412_1130040.jpg上巻は「壁」ができるまでが主要テーマだったが、下巻は分断の固定化から変化の始まり、雪解け、そして壁が崩壊するまでを扱っている。上巻に引き続いて、「壁」ができてからも途絶えることの無かった脱出者のことが延々と綴られており、その数の多さと、命を賭して脱出を図った人たちの多くが若い人たちだったという事実を前にして言葉を失う。

この巻の第9章は、1989年11月8日から9日にかけて、壁の崩壊に向かって事態が雪崩を打って進んでいった様子が30分刻みに綴られている。「鉄条網」が張り巡らされたときと同じように、この事態も他の国の人びとにとっては突然のことだったし、どうやら東ドイツ当局にとっても突然だったらしい。だからもちろん、東西の住民たちや警備兵たちにとっても突然のことで、その混乱ぶり、狼狽ぶりから一人一人の人間が見えてきて興味深い。
壁が崩壊してみれば当然、壁がもたらしたマイナス面がいっそうクローズアップされてくる。壁際で散った多くの命。家族や親戚、知人との長い断絶。東西どちらの人びとをも苛む相手側への不信感……。「あのときは壁が必要だったのだ」、「今回のところは、共産主義はうまくいかなかった」という声もあるが、「私の28年分の人生を返してもらいたい」という声の前では空しく響く。(2008.8.5記)
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by nishinayuu | 2008-11-01 11:37 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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