『能よ 古典よ!』(林望、檜書店、2009)

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本書は作家・書誌学者で『イギリスはおいしい』などで知られる著者による能楽論と新作能を一書にまとめたものである。





1章「古典文学と能」では『志賀』という曲を取り上げて、能とは、古典文学を縦横自在に取り込むことによってごく少ない字数で千万言にも当たる内容を表現する「恐るべき芸能」である、と説く。

2章には著者による創作能『黄金桜』と『仲麻呂』が収められている。前者は小金井薪能の創立30周年記念の委嘱作品で自然との共生をテーマにした作品であり、後者は阿倍仲麻呂と唐の大詩人王維との厚い友情と別離という史実をもとに、若い人たちが将来への希望を持てるように作劇したものだという。いずれも著者の古典文学の造詣と能への愛が結集した魅力的な作品となっている。

3章では25の曲を取り上げて、それぞれの曲の成り立ち、盛り込まれている古典文学作品、聞き逃したり見落としたりしてはいけない部分、などなどが細かく説かれている。読んでいるうちに実際に舞台を見ているような気もしてくる臨場感のある解説書となっている。その中で特に印象に残ったのは『藤戸』の項。この曲は源平の戦の折にあった次のような話に基づいている。

源氏方の侍大将佐々木盛綱が敵陣のある児島へ渡る浅瀬を浦の男に案内させたあと、男の喉をかききって殺した。敵陣に先駆けする功を自分のものにするためだった。そして戦に勝った後に盛綱は児島を領地に賜る。

さて、能の『藤戸』では冒頭、「波静かなる島廻り、松吹く風も長閑にて、げに春めける朝ぼらけ」に盛綱が領地にお国入りする。と、そこへ老女(浦の男の母親)が登場し、曲が進むと浦の男の亡霊も登場して、という展開になる。

平家物語巻十、元暦元年九月二十五日の夜のこととして出てくる話をもとにしており、『吾妻鏡』には盛綱が藤戸の海路を渡ったのは元禄元年127日とあって、とにかく晩秋か晩冬の出来事である。これについて著者は言う。「明から暗へ、朝から夜へ、とすべてベクトルはマイナス方向を指しているのがこの曲である。されば、冒頭は秋であってはならないことも、これによって領得せられるであろう。このドラマツルギーのためには、季節を反転させることなど、本説に逆らうことにはならない、卓抜なる作者(確証はないが世阿弥であろうか)は、そのように思って季節を三月に設定したに違いないのである。」

というわけで、手元に置いて何度も読み返したくなる本だが、知人から借りたものなので、そろそろお返ししないと……。(2017.6.15読了)


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# by nishinayuu | 2017-09-21 14:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『ロスチャイルドのバイオリン』(アントン・チェーホフ、訳=児島宏子、未知谷)


c0077412_12135624.jpgСкрипка Ротшильла(Антон Чехов)

絵=イリーナ・ザトゥロフスカヤ(Ирина Затуловская

物語の舞台はロシアの小さな町。主人公の一人はロシア人のヤーコフ、通称ブロンザ(青銅)。妻のマルファと一部屋きりの小さな家で暮らすヤーコフの本職は棺桶作りだが、ときたまバイオリン弾きとして副収入を得ている。ロシアの歌の演奏に長けていて、オーケストラの席におさまるとたちまち顔が紅潮し、演奏に熱中する。もう一人の主人公はユダヤ人のロスチャイルド。ヤーコフが呼ばれていくユダヤ人オーケストラでフルートを吹いている。もちろん、著名な富豪とはなんの関係もない。このフルート奏者はとても楽しい曲でさえ、なんとも哀れっぽく吹く。

別にこれといったわけもないのに、ヤーコフはだんだんユダヤ人、とりわけロスチャイルドに対して憎しみとさげすみの情を抱くようになり、言いがかりをつけ、悪口を浴びせたかと思うと、殴りかかろうとさえした。それでヤーコフはどうしても人が足りないというとき以外はオーケストラに呼ばれなくなる。

そんなある日、長年連れ添ったマルファが病にかかり、はるか昔の思い出をヤーコフに語りながら逝く。幼くして亡くなった明るい髪の子ども、三人で歌を歌った川の畔の柳の木陰……。けれどもヤーコフはなにも覚えていない。

やがてヤーコフ自身も病にかかって、川の畔にやって来たとき、憎しみや悪意でいっぱいだった自分の人生が大きな損失だったことを悟る。いよいよ最期のとき、ヤーコフは司祭に言う。「このバイオリンをロスチャイルドにあげてください」。

本書は児童書の体裁の絵本になっている。絵の作者は1954年モスクワ生まれ。父は宇宙ロケット設計者で母は画家という家庭で育ち、5歳の頃から絵と詩をかいたという。フレスコ、絵画、陶器、書籍デザイン、詩作、詩集など、広範囲に活躍しており、作品は世界12カ国の美術館に収蔵されているという。(本書見返しより)

「ロスチャイルドはヤーコフから一サージェン離れたところで立ち止まった。」という文があり、2.134㍍という注がついている。さらに調べてみた結果は以下の通り。

サージェンは中世ロシアの単位で、ウクライナ、エストニア、ラトビアなどでも用いられた。古くは長さが一定しなかったが、18世紀以後は1サージェン=3アルシン=2.134㍍に固定され、メートル法施行によって廃止された。

2017.7.8読了)


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# by nishinayuu | 2017-09-17 12:14 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『夏の嘘』(ベルンハルト・シュリンク、訳=松永美穂、新潮クレストブックス)


c0077412_10061260.jpgSommerlügen』 (BernhardSchlink2010

『朗読者』『帰郷者』『逃げてゆく愛』『週末』と読んできて、5冊目のシュリンク。本作は『逃げてゆく愛』に次ぐ短編集で、以下の7つの作品が収められている。




*シーズンオフ――ニューヨークの貧しい街区で暮らすフルート奏者のリチャードと、オーケストラが買えるほどの財力を持つスーザンが、シーズンオフの岬で出会って……

*バーデンバーデンの夜――シナリオライターの彼は、テレーズが行きたがったのでいっしょにバーデンバーデンに行った。恋人のアンに問い詰められた彼は適当に取り繕ったが、それはアンにとっては許しがたい「嘘」だった。

*森の中の家――彼とケイトが知り合って以来、ケイトの作家としてのキャリアはあがる一方で、彼の方は下がる一方だった。娘のリタが生まれてもケイトは作家として生きることを最優先にする。これに対して、家族の生活を守るために彼がとった行動は……。

*真夜中の他人――ニューヨークからフランクフルトに行く便で隣席に座った男。年のほどは50歳くらい。背が高くて細身で、知的な顔をし、黒髪にはかなり白髪が混じっている。身体になじんだ、柔らかく皺の寄ったスーツを身につけ、ヴェルナー・メンツェルと名のったこの男に、ぼくはこのあと翻弄されることになる。

*最後の夏――客員教授として毎年ニューヨークの大学に招かれた25年を懐かしみながら、今彼は妻と湖畔の家に滞在している。二人の息子と家族も呼び寄せたし、友人たちも立ち寄ることになっている。死ぬ前に人々と味わう幸福をうまく準備できた、と彼は思った。

*リューゲン島のヨハン・セバスティアン・バッハ――信頼関係が築けないまま父を見送ることになるのを避けたいと考えた息子。父と自分が二人とも好きな「海」と「バッハ」を楽しむために、9月にリューゲン島で行われるバッハ・フェスティバルに父を誘う。

*南への旅――子どもたちや孫たちに誕生日を祝ってもらいながらも孤独を感じてしまう彼女は、思い立って学生時代を過ごした町に旅をする。同行した孫娘のエミリアが勝手にアレンジしたアーダルベルトとの再会によって、彼女は気づかされる。彼女はアーダルベルトに捨てられたのではなく、自分が彼を捨てて別の人生を選んだのだということを。

始めのほうに登場する男性たちはそろいもそろって優柔不断で、女性たちは繊細さに欠ける。読み続ける気力が萎えそうになるが、「真夜中の他人」あたりから面白くなり、「最後の夏」は目が離せない展開となる。そして最後の2編はしみじみとした味わいのある作品となっており、さすがシュリンク、と納得して読み終えることができる。(2017.6.9読了)


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# by nishinayuu | 2017-09-13 10:07 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

映画鑑賞ノート27 (2017.8.31作成)

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   20175月~8月に見た映画とドラマの記録

1(2)行目:鑑賞した月/日 タイトル(原題)制作年・制作国 監督

2or3)行目以下:キャスト、一言メモ

画像は「ランドガールズ」です。




5/10 ある日どこかで(Somewhere in Time

1980米 ヤノット・シュワルツ

   クリストファー・リーヴ、J.シーモア、クリストファー・プラマー

   ストーリーと音楽(パガニーニの主題によるラプソディー)はいい。

   ただし主役のふたりはミスキャストでは?

5/23 レッド・オクトーバーを追え(TheHunt for Red October

   1990米 ジョン・マクディアナン

   ショーン・コネリー、アレック・ボールドウィン、サム・ニール

   ボロディン副艦長の「モンタナの夢」をかなえてあげたかった――

6/2 あの日の指輪を待つ君へ(Closingthe RingR.アッテンボロー

   クリストファー・プラマー、シャリー・マクレーン

   第2次大戦前夜の米から現代の米・アイルランドを舞台に、50年に

わたる恋人への思慕と男たちの友情・信義を描いた秀作。

6/10 君がくれた未来(CharlieSt.Cloud 2010米 バー・スティアーズ

   ザック・エフロン、チャーリー・ダハン、アマンダ・クルー

   ベン・シャーウッド原作のファンタジー。角川文庫に邦訳がある。

6/11 オレンジと太陽(Orange andSunshine2010英 ジム・ローチ

   エミリー・ワトソン、デヴィッド・ウェンハム、H.ウィーヴィング

   かつて13万の孤児が英から豪に棄民されたという史実に基づいて、

   ソーシャルワーカーの戦いを描いた重い作品。

6/11 オブリビオン(Oblivion2013米 ジョセフ・コシンスキ=

   トム・クルーズ、モーガン・フリーマン、オルガ・キュリレンコ

   キャストにフリーマンの名があると「いい映画」の予感がする(?!)

   この作品のジャンルはSFスリラーというらしい。

6/16 エリザベスタウン(Elizabethtown2005米 キャメロン・クロウ

   オーランド・ブルーム、キルスティン・ダンスト、S.サランドン

   主題は恋?家族の絆?故郷の温かさ? どれも中途半端で退屈。

6/20 チェンジリング(changeling2008米 C.イーストウッド

   アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ

   タイトルの意味は「替え玉」。1928年にロサンジェルスで起こった

事件をもとにしたサスペンス。

6/21 ランドガールズ イギリスのTVドラマ シリーズ123

   ベッチ・ゲメル、スーザン・クックソン、マーク・ベントン

   第2次大戦中のマナーハウスと農場を舞台にした群衆劇。

まだ話は完結していない。早く続きを作って~。

6/26 わが家のおバカで愛しいアニキ(OurIdiot Brother2011

   ジェシー・ペレッツ

   ポ=ル・ラッド、エリザベス・バンクス、ゾーイ・デシャネル

   登場人物はみんなどこかおかしくて憎めない。姉妹のうち下の二人

はすごい美人。レズの相手は杏にそっくり。で、気楽に楽しめる。

6/27 ブレードランナー(BladeRunner1982米 リドリー・スコット

   ハリソン・フォード、ション・ヤング、ダリル・ハンナ

   原作はF.K.ディック。「人間的感情を持つアンドロイド・レプリカ

ントの悲しさ」が印象的。音楽(ヴァンゲラス)もいい。

7/10 エアフォース・ワン 1997米 W.ペーターゼン

   ハリソン・フォード、ゲイリー・オールドマン

   ハイジャック・グループとの攻防もすごいけれど、長時間飲まず

食わずでトイレにも行かないのがすごい(と、低レベルの感想)。

7/16 愛おしき隣人 スウェーデン ロイ・アンダーソン

   エリザベート・ヘランダー、ジェシカ・ルンドベリ

   青白い皮膚の男女が不機嫌な表情で動き回るのが美しくもあり、

   不気味でもあり……

7/26 ロビンとマリアン 1976米英 リチャード・レスター

   ショーン・コネリー、オードリー・ヘプバーン、ロバート・ショウ

   ロビンフッドの晩年をコネリーが熱演。マリアンはヘプバーンに

   よく似ているなあと思って見ていたら本人でした(!)

7/26 恋するパリのランデヴー 仏 ジェームズ・スコット

   ソフィー・マルソー、ガド・エルマレ、モーリス・バルテレミ

   ドタバタふうの展開ながら、ストーリーも結末も納得できる。

   ソフィー・マルソーがかわいくて素敵な大人になっている。

7/27 白い沈黙 2014 アトム・エゴヤン

   ライアン・レイノルズ、スコット・スピードマン

   神経に障るサスペンスドラマでした。カンヌのパルム・ドールに

   ノミネートされたそうだが。

7/29 マラヴィータ 2013米 リュック・ベンソン

   ロバート・デニーロ、ミシェル・ファイファー

   アクション・コメディーだそうだ。家族の絆は深まったかも知れ

ないけれど、なんの解決にもなっていないのが気になる。

7/29 365日のシンプルライフ(tavarataivas2014 ルーッカイネン

   ペトリ・ルーッカイネン

   ヘルシンキに住む青年が失恋をきっかけに所持品ゼロからの出発

に挑んだドキュメンタリー。

7/30 幸せの行方(All GoodThings2010 A.ジャレッキー

   ライアン・ゴズリング、キルスティン・ダンスト

   実話を基にしたミステリー。息子も異常だが父親も異常。ヒロイン

   は気づくのが遅すぎる。ゴズリングの顔を見ればすぐわかるのに。


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# by nishinayuu | 2017-09-09 11:29 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(1)

『赤毛のアン』(モンゴメリ、訳=村岡花子、新潮社)

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Anne of Green Gables』(Lucy Maud Montgomery,1908

『赤毛のアン』シリーズの第1巻目「グリーンゲイブルズのアン」である本書を改めて読み直してみたのは、ある人から次のような疑問をぶつけられたからだった。

5章でアンが自分の身の上を語りながら「トマスの小母さんはあたしを牛乳で育ててくれましたの。あのねえ、あたしにはわからないんですけれど牛乳で育った子はおかあさんのお乳で育つのよりよくなるわけなんでしょうか?あたしがいたずらをするたんびに、小母さんは牛乳で育てたのにどうしてそんな悪さをするのかって叱りましたよ」と言っているが、当時は母乳でなく牛乳で育てることが奨励されていたのだろうか。

そこで、グーテンベルク・プロジェクトで原文に当たってみたところ、この部分は次のようになっている。

Shebrought me by hand. Do you know if there is anything in being brought up byhand that ought to make people who are brought up that way better than otherpeople? Because whenever I was naughty Mrs. Thomas would ask me how I could besuch a bad girl when she had brought me up by hand---reproachful-like.

[bringup by hand]を辞書で調べてみると「母乳でなく人工乳で」と「手ずから、手塩にかけて」という二つの意味が出ている。村岡花子さんは前者の意味にとって訳したため、人工乳育児と母乳育児を比較するような、かなり大胆な意訳になったのではないだろうか。ここは後者の意味にとって、[other people]も「それほど大切に育てられていない子たち」くらいにしておいたほうがいいように思われる。当時のカナダで人工乳育児と母乳育児の善し悪しが問題になっていたのだとしたら話は別であるが。

上記の部分を除けば、本書の文は驚くほど滑らかで読みやすい。古くさい表現(ほしがっていなさる、連れて行ってくだすった、あなたがきあわせなすって)があったり、今では普通に使われるゼラニウムが「あおい」となっていたり、とちょっと気になる点がないわけではないが、インターネットもない時代にこれだけの翻訳をやってのけた訳者の力量にあらためて感銘を受けた。

シリーズの中ではやはりこの最初の巻が断然面白い。アンがどんどん変化し、成長していくのにつれて、アンに振り回されるマリラもどんどん変化し、成長(?)していくところがいいし、そのふたりの変化を満足げに見守っているマシュウはほとんど変化しないところもいい。(2017.6.2読了)


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# by nishinayuu | 2017-09-05 09:34 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

『妻は二度死ぬ』(ジョルジュ・シムノン、訳=中井多津夫、晶文社)


Les Innocents』(Georges Simenon, 1972

c0077412_09441187.jpg主人公のジョルジュ・セルランはパリ有数の宝石デザイナー。サントノレ通りの有名宝石店で10年近く働いていたが、その店の店員だったブラシェに誘われてセヴィニェ通りにある宝石店の共同経営者となった。資本を提供したブラシェの方が主役だったことは言うまでもないが、ブラシェは宝石店を回って注文をとることが仕事で、セヴィニェ通りのアトリはもっぱらセルランの領分だった。こうして二人の関係は17年も続いていた。

「人は幸せな時それと気づくものなのだろうか。しかし、セルランなら、躊躇することなく、自分が日々幸せであり、その幸せがおびやかされるようなことは絶対におこりえない、はっきりとそう言ってのけたかもしれない。経営者に何ひとつ気がねをしないで、好きな仕事をしていられるのである。妻のアネットや二人の子どもたちも何ひとつ余計な心配をかけるわけでもなかった。」

ところがある日、妻のアネットが、ワシントン通りでトラックにはねられて死んでしまう。ケースワーカーとして働く彼女の受け持ち区域でもなく、彼らの住まいのあるボーマルシェ通りからも離れたワシントン通りに、アネットはその日なぜ出かけたのだろうか。事故現場を訪ねたセルランは、やがて思いもかけない妻の秘密に行き当たる。

本作には、妻との出会いと20年にわたる結婚生活のあれこれ、子どもたちとのやりとり、アトリエで働く仲間との交流などがこまごまと描かれており、ホームドラマのような趣がある。ミステリーの大御所である作者はこの作品を発表したあと絶筆を宣言し、その後は雑記のようなものしか書いていないという。因みに、訳者あとがきに次のような文があり、なるほど、と思ったので書き留めておく。

「子どもたちに対するセルランの理解と思いやりは、シムノンをほうふつとさせる。また、本書の子どもたちに母親の影が全く認められないのもシムノンらしい。シムノンは子どもたちの母親とかなり以前に離別しており、「母親」を排除したいという願望があったことは否めない事実だからだ。」

2017.5.31読了)


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# by nishinayuu | 2017-09-01 09:45 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『済州島で暮らせば』(金蒼生、新幹社)


c0077412_09382963.jpg著者は大坂で生まれ育った在日コリアン二世。中学までは日本名で日本の学校に通い、高校から朝鮮学校に通ったという。2011年、60歳のときに、「生まれる地を選べなかった。せめて死に場所は選びたい」と、父祖の地である済州島に夫とともに移住し、定住している。


本書は2011年から2016年までの思いと体験を綴ったエッセイ集。新参者の素朴な驚きと感動ではじまった著者の済州島暮らしは、やがて島の歴史と文化を熱く語る済州島人としての暮らしへと変容していく。本書は観光地としての済州島しか知らない読者には、本書の帯にあるように「済州島の深層心理と出会う済州島入門書」となるだろう。それと同時に本書の後半部分は「韓国社会の性格と行動パターンに出会う韓国入門書」としても読める。

2014年の「現在を撃つ四十五年前のエッセイ」の冒頭に、台風のせいで雨が降り続いて外仕事ができないので、手許にある『小林勝作品集』を読む話が出てくる。この作家や作品集については置いておいて(!?)、著者がこのときの台風の名前ノグリ(狸)について「何故こんな名前が採用されたのだろう」と疑問を投げかけている点について一言。

2000年から台風の名前は「台風委員会」の加盟国(14カ国)が提案した140の名前を発生順に付けることになり、韓国はケミ(蟻)、チェビ(燕)、ナリ(百合)、ノグリ、チャンミ(薔薇)などを提案している。2014年に8番目に発生した台風がちょうどノグリの番だったというだけのことだ。あるいは著者はそれを承知のうえで、台風委員会に提案する前の段階で、名前の候補の中から「何故こんな名前が採用されたのか」と韓国の提案者に疑問を呈しているのだろうか。疑問の真意がわからない曖昧な文章に、しばし悩んでしまった。ついでに言えば、本書は校閲、校正の不備が少なくないため、内容にも全幅の信頼は置けないように思えてくるのが残念だ。(2017.5.26読了)


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# by nishinayuu | 2017-08-28 09:40 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

『パリで待ち合わせ』(デボラ・マッキンリー、国弘喜美代、早川書房)


c0077412_09300359.pngThat Part Was True』(Deborah McKinlay

本書の主人公は、アメリカに住む50回目の誕生日を目前に控えたジャックと、イギリスの片田舎で暮らす46歳のイヴ。ジャック(ジャック・クーパー)はアメリカに住むベストセラー作家だが、最近はスランプ状態である上、妻との別れ話が進行中。イヴは強権的な母親ヴァージニアに押さえつけられて育ち、その母親のせいで夫には逃げられ、一人娘イジーの母親として生きる楽しみも奪われた。そんな二人が文通を通して次第に親しくなっていく。文通のきっかけは、イヴがジャックに送ったファンレターだった。その文面は――

電子メールの方が手っ取り早いのかも知れませんが、手書きの方が言葉を選ぶのに慎重になりますし、作家の方にお手紙を書いている実感がもてます。お伝えしたかったのは、先生の『戻らなかった手紙』を大変おもしろく拝読したことです。ハリー・ゴードンが桃を食べるシーンを読んで、雨模様のイギリスにひととき夏が訪れました。あの場面は完熟した果物を口にするという、いわば退廃した喜びを思い起こさせてくれました。

それに対するジャックの返信――

読者の方からご意見をいただくのは胸躍るもので、手紙ならなおさらです(めったにいただけないのが悲しいところです)。果汁のくだり、同感です。こちらでも、手に入る果物はたいていプラスチックのような代物です。熟していないほうが、あなた方イギリス人の言うジャムを作るにはよいのだと何かで読みました。ぼくはジャムを作ったことはありませんが、あなたのお手紙を読んで、手間を惜しまず挑戦してみようかなと考えています。

これをきっかけに二人は手紙のやりとり、主として料理のレシピを教え合うことを通してどんどん親しくなって行き、ついには「パリで待ち合わせ」という話が出るほどの中になるのである。したがって本書の読みどころのひとつはイギリスとアメリカの料理のレシピであるが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に大きな比重を占めるのが、もう若くはない男女が思うようにならない日々を切り抜けて自分なりの幸せを見つけていく過程である。(2017.5.26読了)


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# by nishinayuu | 2017-08-24 09:30 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)

韓国ドラマノート-その11(2017.8.作成)

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20161月から20178月末までに見終わったドラマを視聴順に並べました。

1行目:日本語タイトル、韓国語タイトル、放送局

2行目:キャスト 34行目:一言メモ


武神 무신 MBC

  キム・ジュヒョク、チョン・ボソク、パク・サンミン、ホン・アルム

  時代は高麗の高宗期。王は急速に老いていくのにヤンベク(パク・サ

ンミン)は始めからおじさんで、最後も普通におじさん。

近肖古王 근조고왕 KBS

  カム・ウソン、キム・ジス、チョン・ウィガプ、アン・ジェモ

  百済の第13代の王の物語。納得のいく展開で見応えあり。

信義 신의 

  イ・ミンホ、キム・ヒソン、リュ・ドクファン、クォン・ミン

  タイム・トラベルの物語。主役ふたりがいい。話がうまくいきすぎの

感はあるが、ファンタジーなのだからそれでいい。

屋根部屋のプリンス 옥탑방의 왕세자 SBS

  パク・ユチョン、ハン・ジミン、イ・テソン、チョン・ユミ

  軽く楽しめるドラマ。ただ、これを見終わった頃に主役俳優のスキャ

ンダルが発覚してげんなり。

くかうか 빛나거나 미치거나 MBC

  チャン・ヒョク、オ・ヨンソ、イ・ハニ、イ・ドックファ

  イ・ドックファは顔も声も憎たらしいけれど、韓国語がとても聞き

取りやすいから好き。でも、もしかして、なまっている?

成均館スキャンダル 성균관 스캔들

  パク・ユチョン、パク・ミニョン、ソン・ジュンギ、ウ・アイン

  キム・ユシクが女だとわかったときの丁若鏞と王の態度はプルトン

(不可=不合格)、イ・ソンジュの父が下した結論はトン(可=)。

ジョンイ 불의 여신 정이 MBC

  ムン・グニョン、イ・サンユン、キム・ボム、ソ・ヒョンジン

  壬辰倭乱の折に九州に連れてこられ、有田で960人の陶工を率いて

白磁を生産した女性陶工・百婆仙の朝鮮時代の姿を描いたドラマ。

ビッグメン 빅멘

  カン・ジファン、チェ・ダニエル、イ・ダヒ、チョン・ソミン

  ジファンとダニエルの対決は悪役ダニエルの勝ち。もちろん物語の

中の勝者は前者だが。

未生 미생

  イム・シワン、イ・ソンミン、カンソラ、カンハヌル

  挫折を味わった青年が一流企業に拾われたせいで経験する忍耐と屈辱

の日々。社内の人間模様、青年の成長を描いた見応えのあるドラマ。

パスタ 파스타 MBC

  イ・ソンギュン、コン・ヒョジン、アレックス、チェ・ミンソン

  健気な女性役がぴったりのヒョジンに美声が印象的なソンギュン。

  卑小な役もぴったりはまるミンソン。役者がそろっていて見応え充分。

秘密扉 비밀의 문 SBS

  ハン・ソッキュ、イ・ジェフン、キム・ユジョン、パク・ウンビン

  時は朝鮮王朝第21代英祖の時代。「米櫃事件」によってわが子を失い

今度は孫(正祖)の信頼も失いかけている王の葛藤を描いた作品。

伝説魔女 전설의 마녀 MBC

  ハン・ジヘ、ハ・ソクジン、コ・ドゥシム、チョン・インファ

  ハッピーエンディングのドタバタドラマ。それにしても韓国ドラマは

「魔女」と女性受刑者が好きですねえ。

天使罠 천상여자 KBS

  ユン・ソイ、パク・ジョンチョル、ムン・ボリョン、クォン・ユル

  どろどろ復讐劇。それにしても韓国ドラマは「天使」が好きですねえ。

  もっともこのドラマの場合は日本語タイトルの付け方の問題かも。

頑張れチャンミ 달려라장미 SBS

  イ・ヨンア、コ・ジュウォン、リュ・ジン、ユン・ユソン

  ヒロインが持ち前の優れた資質と努力によってどん底から這い上が

り、幸せをつかむ物語。ヒロインをライバル視する女性の行動は異常。

それでも 그래도 푸르른 날에  KBS

  ユン・ヘヨン、ソン・ハユン、チョン・イヨン、キム・ミョンス

  どろどろ劇。本妻の家に乗り込み、本妻と自分の赤ん坊を取り替え、

財産を奪って行方をくらまし――という凄まじい女をヘヨンが怪演。

名家 명가 KBS

  チャ・インピョ、ハン・ゴウン、キム・ソンミン、チェ・イルファ

  慶州のある一族が名家と言われるようになった経緯を描いたドラマ。

明火賊の頭目役のキム・ミョンスは「劇団ひとり」のお父さん?


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# by nishinayuu | 2017-08-20 21:50 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(1)

『死の翌朝』(ニコラス・ブレイク、訳=熊木信太郎、論創社)

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The Morning After Death』(Nicholas Blake1966

舞台はハーバード大学がモデルと思われるガボット大学。登場するのはガボット大学の教授をはじめとする大学関係者たち。



主要人物は以下の通り(登場順)。

*ナイジェル・ストレンジウェイズ……イギリス人の私立探偵。客員研究者としてガボット大学ホーソン・ハウスの寄宿舎に滞在中。

*チャールズ・ライリー……アイルランド人の詩人。客員詩人として滞在中。

*チェスター・アールバーグ……ガボット大ビジネススクール教師。

*スーキー・テート……エミリー・ディキンスンをテーマに博士論文を執筆中の大学院生。

*マーク・アールバーグ……ガボット大文学部教師。チェスターの弟。

*エゼキエル(ジーク)・エドワーズ……ホーソン・ハウスの寮長。オクスフォード大時代のナイジェルの同級生。

*メイ・エドワーズ……ジークの妻。

*ジョシア(ジョシュ)・アールバーグ……ガボット大文学部教授で専門は古典文学。チェスターとマークの異母兄。ホーソン・ハウスは3兄弟の父親が建てて大学に寄贈したもの。

*ジョン・テート……スーキーの弟。ガボット大学の学生。ジョシアとの間で論文をめぐる諍いがあり、停学中。

物語は上記の5番目までの人物がエミリー・ディキンスンの故郷アマーストにドライブする場面から始まり、車の中での会話からそれぞれの人物の立場や人間関係が大体わかるようになっている。それに続くのはディキンスンの家の前にみんなを並べてナイジェルが記念写真を撮る場面。ここでは各人の顔立ちや身なりなどが詳しく描かれていて、人柄が類推できる。このあとに「『歴史的な写真だな』とナイジェルは独りごちたが、何気ないその言葉がいかなる意味を持つことになるか、幸いにもまだ気づいていなかった」という意味深な文が続く。この日一緒にドライブした男女は、このあとホーソン・ハウスの殺人事件の当事者、もしくは重要参考人になっていくのだ。

作者のニコラス・ブレイクは、本名セシル・デイ=ルイス――かの有名な桂冠詩人その人であり、『丘の上の樫の木』などで知られる小説家でもある。(2017.5.13読了)


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# by nishinayuu | 2017-08-16 09:17 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)